街を移動する際にスマートフォン等によるルート・ナビゲーション・システムを利用するユーザは多い.しかし,移動中に小さな画面で経路を確認することは危険を伴う行為である.このため,人が記憶しやすく視認性の高いランドマークを用いたナビゲーション・システムがこれまで提案されてきた.それらシステムで主に用いられるランドマークは,1)郵便局やコンビニエンス・ストアのような,近くまでいかないと視認できないが,確認することでユーザの現在位置を高い精度で同定できるものか,2)電波塔や高層ビルなどのように,遠方からでも視認できるが,現在位置をおおまかにしか同定できないもの,の2種類であった.本論文では,これらランドマークを,その視認性や位置同定能力から,それぞれ,1)点のランドマークおよび,2)面のランドマークと呼ぶ.これら,点と面のランドマークは,その性質の違いから,同時に使用することが難しく,これまでのシステムは,いずれか一方を用いるものであった.そこで,我々は,3)電車通りや河川のように,すぐ近くまで行かないと視認できないが,その範囲が線状に広がりを持つものを新たに,3)線のランドマーク,として定義し,これを用いて従来難しかった,複数種類のランドマークを同時に利用可能なシステムを提案する.本システムを用いれば,少ない数のランドマークを利用して目的地に到達することができるため,スマートフォンなどの画面を見る回数を減らすことができる.
本稿は,モバイルディスプレイやアプリケーションウィンドウなど限られたサイズのスクリーン上で,スクロール操作を画面外に拡張することができる連続的なタッチスクロール操作について検討する.提案する連続的なスクロールでは,トラッキングシステムによりデバイスの周囲空間での指の動作を取得することで,タッチスクロール操作におけるユーザの運動領域を拡張し,長距離スクロールにおけるクラッチ数を減らすことができる.これにより,指や手が画面上を覆う時間(オクルージョン)を減らし,安定した画面の情報探索や,素早い画面外コンテンツの獲得を実現することができる.本研究では,大画面タッチスクリーンとモバイルタッチスクリーンの2つの代表的なスクリーン環境において,連続的なスクロールの基礎的なパフォーマンスを既存手法(ドラッグ,フリック)との比較を通して検証した.前者の環境では,スクリーン内に表示されたアプリケーションウィンドウの周囲にウィンドウ内と同一のタッチスクリーンが存在しており,これによりウィンドウ外での指の動きを計測する.後者では,スクリーン周囲は空中であるため,外部の3次元トラッキングシステムにより指の動きを計測した.ユーザスタディの結果,連続的なスクロールは既存手法よりもクラッチ回数,操作指によるオクルージョン,操作負担を減らすことのでき,また見落としの少ない情報探索ができたことが分かった.また,実験結果をもとに連続的なスクロールの設計指針や実装例についても議論した.
近年,計算社会科学の分野でウェブ上のソーシャルデータを用いて,社会現象の定量的理解や社会心理学的な実証研究等,様々な研究が活発に行われている.その中でもソーシャルデータを用いた政治選挙の結果予測は重要課題の1つである.Twitterと選挙の関係を表す仮説として, More Tweets, More Votes (MTMV)仮説がある.本研究では,2014年2月に行われた東京都知事選挙を題材とし,この仮説が東京都知事選挙において成立しなかったことを示す.さらに,候補者に対するオンライン注目度を情報エントロピーで計測することを提案し,この指標と得票数との相関が高いことを示す.
遠隔操作ロボットと自律ロボットの本質的な違いは遠隔地にいる操作者の存在の有無である.この存在の有無をユーザがどのように判断しているのかは未だ良く分かっていない.その判断のメカニズムを明らかにすることによって,自律ロボットとの対話を人との対話のように感じさせることが本研究の目的である.我々は,被験者が遠隔操作状態と自律状態のロボットとそれぞれ対話する実験をソーシャルテレプレゼンステストに基づいて行った.ソーシャルテレプレゼンステストとは,自律システムが人と同等の存在感を生み出すかどうかを評価する我々が考案したテストである.実験の結果,自律状態のロボットとの対話における遠隔操作者の存在感の有無は,遠隔操作状態の同じロボットとの対話を事前に行ったかどうかによって判断されることが分かった.これは,被験者が遠隔操作状態のロボットと事前に対話した場合,その際に感じた遠隔操作者の存在感が,自律状態のロボットとの対話でも継続して感じられたと考えられる.また,事前の対話において自律システムが遠隔操作者を装った場合であっても,自律状態のロボットとの対話で遠隔操作者の存在感が生み出されることも分かった.
ビデオ会議はディスプレイを境界面とした窓越しのコミュニケーションシステムであるためソーシャルテレプレゼンス(遠隔地にいる人と対面している感覚)が十分であるとはいえない.本研究では,対話相手の映像から境界面であるディスプレイを超えて身体の一部が実体化したかのように見えるデザインがソーシャルテレプレゼンスを強化するか検証する.身体の一部を実体化して提示することが有効に働く状況として,遠隔地にいる対話相手によるユーザ側の空間を指示するインタラクションが挙げられる.そこで我々は,ビデオ会議に指差し用ロボットアームを取り付けたPopArmを開発した.PopArmは,映像内の対話相手の指示行為に同期してディスプレイ上を動くロボットアームである.実験の結果,映像から人の腕が飛び出したかのように見せるデザインがソーシャルテレプレゼンスを強化することが分かった.さらに,このロボットアームを用いることで,映像を介して指示する場合よりも,映像内の対話相手との距離をより近く感じさせ,ソーシャルテレプレゼンスが強化されることが分かった.
我々は,ユーザの状態や状況を,ユーザに意識させることなくセンシングするために,座面下に4つの圧力センサを備え,非装着・非侵襲に座面の重心位置と重量を取得できる椅子型デバイスSenseChairを実装し,検討を進めている.本稿では,SenseChairを複数台用いて,着座しながら会話をしている会話者の身体的な同調傾向を検出する手法について検討する.SenseChairによって得られた会話者それぞれの時系列重心・重量データに窓関数を用いて周波数解析し,各データにおける周波数成分の時間変化を求め,話者一人分の揺動の周波数成分の時間変化を抽出する.さらに,会話者全員が揺動している部分のみ抜き出すことで,会話時間における同調傾向値を抽出した.実際の会話場面を設定し,議論後に行ったアンケート調査の結果と同調傾向の関連を検討した結果,同調傾向が大きいほど,「場が盛り上がった」,「課題に夢中になった」と報告されていることが明らかになった.これにより,会話者の着座時揺動による同調傾向の検出が可能であることが示唆された.
我々は現在主流となっている一般的な固定された環境を,ユーザにとってより良いものへと変化させるために,作業内容やユーザの希望に適応可能な自律移動型インタラクティブテーブルを実装した.テーブルの移動中は利用中のコンテンツを変形させアニメーションを生成してユーザに対する移動の手がかりを出す.本研究では,自律移動型デジタルテーブルの動きがユーザによってどのように認識されるか,そして複数のテーブルが同時に動いたときにユーザの協調作業に与える影響について実験を行った.実験の結果,アニメーションを利用することによってユーザに対する移動の合図を行うことができたこと,そしてテーブルの移動はユーザの空間行動活発にさせることが確認できた.
スポーツは記録や勝敗を競うだけでなく,健康維持やコミュニケーションといった目的のためにも利用されている.しかし,熟練者と非熟練者でスポーツをする場合,技能や運動能力に差があるため,両者が楽しめないという状況が起こりうる.この問題を解消するために,ハンディキャップを設定するという対応が取られるが,スコアや人数の調整などの範囲に留まってしまう.もし,運動能力や技能に直接ハンディキャップを導入する事が出来れば,誰もがスポーツを楽しみながら取り組めるようになるかもしれない.本研究ではボールに自律移動能力を付加したボール型デバイスHoverBallを提案する.HoverBallは内蔵したUAV(Unmanned Aerial Vehicle)とモーションキャプチャシステムによる空間位置計測により,ボールの軌道と球威を動的に制御することができる.そのため,HoverBallを使ったスポーツでは,競技中にプレイヤーの技能差を埋めることが可能となる.
本研究では,柔軟なブロックの積み重ねを認識する新たなブロック型UI“StackBlock”を提案する.ユーザは積み木のように任意の位置や角度でブロックを積み重ねることにより,3次元形状を構築することができる.StackBlockの各表面には赤外線LEDとフォトトランジスタをマトリクス状に敷き詰めており,ブロックを積み重ねると,向かい合う赤外線LEDとフォトトランジスタから接触領域を認識し,また,同様の赤外線LEDとフォトトランジスタを用いて,ブロック間で接触情報を赤外線通信する.このブロック間での赤外線通信のリレーにより全ての接触情報を一番底に配置されたブロックに集約し,ホストPCに送信する.ホストPCは接触情報から構築形状を認識し画面上に再現する.我々はStackBlockのプロトタイプを実装し,精度や形状認識の速度の評価を行い,柔軟な積み重ねを用いた3次元形状認識が実現できていることを確認した.
本稿では,テーブルトップ型ディスプレイのようなダイレクトインプットサーフェスにおける前腕(腕の肘から手首までの部分)を積極的に活用したインタラクションを提案する.まず,前腕に適したインタラクションを設計するために,卓上作業で前腕がどのように使われているのかを観察した.その観察結果から,本研究では前腕を活用したインタラクションとしてストレージ,衝突,範囲指定の3種類のインタラクションを提案する.また,テーブルトップ型ディスプレイで一般的に利用されるインタラクション手法と比較する実験を行い,提案したインタラクションの特性を確認する.
ウェアラブルカメラの登場により,装着者の体験を一人称視点で記録し,共有することが可能になった.しかし,このような映像には,映像の揺れによるモーションシックネスや,視野が装着者の姿勢によって制限されてしまう等の問題がある.LiveSphereは,人間の体験を他者に共有しコミュニケーションを行うためのシステムである.装着者の体験は複数のカメラによって全周囲映像として記録され,伝送される.記録された映像は,画像処理によりリアルタイムに回転運動成分を取り除くことで,装着者の頭部運動が分離される.これにより,モーションシックネスが改善されるとともに,装着者と独立した環境の観察が可能になる.本稿では,システムの実装及び評価実験,パイロットスタディをおこない.ヒューマンテレプレゼンスにおけるインタラクションデザインに関する洞察を与える.
我々は,不安障害やうつの発生予防を目的としたセルフ行動調整アプリケーション「いっぷく堂」を開発し,その適用可能性(アクセプタビリティおよび有効性)を検討した.「いっぷく堂」では,日々の気分や体調の変化についてセルフ・モニタリングを行うと,その日の心身の調子に合わせた行動が提案される.ユーザはその日の朝,表示された質問に回答して心身の調子を登録し,その日の調子に応じたフィードバックと行動提案を受ける.ユーザは提案された行動を実施することが期待されるが強制ではなく,インタフェースやインタラクションにおいても強制的な雰囲気を排除するよう努めた.そして夜には,気分を入力し提案行動の実施結果を報告する.継続的な利用を維持するための工夫として,ユーザとやりとりを行うキャラクタと,ゲーミフィケーションを活用している.継続的に使用することで,ユーザが自分の行動を調整できるようになることが期待される.98人の成人男女に対し30日間のモニターを実施したところ,提案行動の実施による気分の改善が示され,セルフ行動調整システムの適用性が示唆された.また,アプリケーション使用前後での精神的健康度を比較したところ,抑うつ症状に対して有意な改善が見られた.結果を通して,動機づけを持たないユーザに対する予防アプリケーションの可能性および課題についての示唆が得られた.
本研究の目的は,対話により体験情報を外在化し,記録として蓄積するための協創環境の実現である.この環境は,計算機に馴染みの薄い話し手を対象に,話し手が体験情報を一方的に語るのではなく,聞き手も積極的に関与することで引き出して外在化し、協調的に情報を編纂していくための基盤である.本稿では,聞き手が話し手から体験情報を引き出すインタラクションのモデルとして,高齢者の土産話に着目した.ユーザ中心設計の観点から一人の高齢者に着目し,体験情報の外在化行為の観察およびインタビューを行ったところ,体験情報に関連する資料や情報があることによって外在化が促進されることが示唆された.この知見に基づき,協創環境のデザイン指針を(1)体験情報を外在化するための情報提示機能,(2)外在化された体験情報の記録機能と定め,実装されたシステムを用いてユーザ観察を行うことで有用性について検討した.その結果,聞き手が協創環境から提示される情報を活用することで,双方向性のあるコミュニケーションが実現し,高齢者から体験情報を引き出しながら,それを電子的に記録・蓄積することが可能であることが明らかとなった.一方で,ユーザインタフェースや機能,提示する情報の構造については改善の余地があることがわかった.
楽器の演奏技術の向上には多大な時間や労力を必要とするため,敷居の高さに利用を断念したり,習熟効率の低さから挫折してしまう演奏者が多い.鍵盤演奏の敷居を下げるために,光る鍵盤のように次に打鍵する鍵を鍵盤上に提示するなど直観的に打鍵位置を把握できる学習支援システムが提案されてきたが,学習者のミスに対して厳格で,学習者はミスをしないように細心の注意を払う一方,打鍵ミスが続くと次に進めないためフラストレーションがたまり練習へのモチベーションが下がってしまう.そこで,本研究では,モチベーションの維持を考慮したピアノ学習支援システムの構築をめざす.提案システムは学習者のモチベーションを維持させるためにミスの許容度を導入し,ミス許容度の異なる多段階のモードをもつ.提案システムの有用性を検証するために評価実験を行った.比較手法と比較してモチベーションを維持でき,かつ,効果的に学習できることが明らかになった.
本稿では,市販CDのような複雑な音楽音響信号に含まれる歌声に対して,伴奏音に影響を与えることなく歌唱表現(ビブラート・グリッサンド・こぶしなど)の編集を行うためのシステムについて述べる.近年,既存楽曲をユーザが自分好みに編集・加工することを可能にする能動的音楽鑑賞システムの研究が盛んである.なかでも,混合音中の歌声の編集は最も実現が難しい課題の一つであり,既存の歌声の声質を他の歌唱者の声質に直接変換する技術は提案されているが,歌声がもつ特徴的な音高軌跡,すなわち歌唱表現を編集する技術は実現されていなかった.我々は,歌声・伴奏音の分離と歌声の音高推定の相互依存性に着目し,従来独立に利用されていたRobust PCA (RPCA)とSubharmonic Summation (SHS)を相補的に組み合わせることで,両タスクの精度を改善する手法を提案する(国際的な音楽認識コンテストMIREX2014の歌声分離トラックで世界最高性能を達成).この技術を応用して,既存楽曲に含まれる歌声の任意の箇所に対して,任意の歌唱表現(あらかじめテンプレートを準備するか他の歌唱者から抽出しておく)を直感的に付与するためのGUIを実現した.実験により,提案システムの優れた歌声解析精度を定量評価し,実際にGUIを用いて市販楽曲を高品質かつインタラクティブに編集可能であることを確認した.
ウェアラブルコンピューティング環境では,ユーザが装着している各種センサを用いてユーザの行動や状況をデータとして保存するライフログが可能になる.ライフログの一つに音声ログがあるが,長時間の音声ログはどこにどんなデータがあるのか判別できないため,有効に利用するためには音声データに対して適切にタグをつける必要がある.筆者らは先行研究において,超音波IDを音声ログに埋め込むことで音声データにタグ付けを行う手法を提案した.本研究では,この手法の実環境での使用について報告し,そこで得られた問題点である,録音デバイスの装着位置が認識精度に影響を及ぼす問題を解決する手法を提案する.具体的には,超音波スイープ信号の周波数応答により録音デバイスの装着位置を認識し,適切なしきい値での認識処理を施す.録音デバイス装着位置の認識率は平均64.0%であり,装着位置によって認識する際のしきい値を最適なものに設定する処理を行ったところ,認識精度に改善が見られた.