Amazon.comのようなショッピングサイトでは,アイテムに対してレビューを簡単に作成・閲覧できる機能が提供されている.レビューに書かれた他者の意見は有用であるが,小説や映画などのストーリーを持ったアイテムに対するレビューには,ストーリーの内容(本稿では「あらすじ」と呼ぶ)が書かれている場合がある.レビューによりあらすじが分かってしまうと,実際に小説や映画を見た時の楽しみや感動が減ってしまい,問題である.そこで本研究では,ストーリーを持ったアイテムに対して,レビュー文を対象としたあらすじ分類手法を提案する.あらすじの判定には5つの代表的な機械学習アルゴリズムを適用した.そして,人名と特有語の一般化による分類性能の向上を図り,F値を用いて評価を行った.また,あらすじを非表示にするシステムを開発した.最後に,被験者実験によりシステムの評価を行った.
音を絞るように,つまみを回転させて節電を行える「節電ボリューム」を提案する.節電ボリュームは,つまみを調節し電力の上限を指示すると,照明やエアコンなどの家電を,機器の優先度を考慮して瞬時に制御する.さらに、総消費電力を計測し円グラフ状に表示しているため、利用者はつまみを回転させて、具体的にどれだけ節電できたかを体験によって理解できる.本稿では,開発した節電ボリュームのシステム構成と機能について述べる.また、実験室と独身寮の一室を用いた動作試験の結果、および当所で実施したオープンハウスでの一般評価結果を述べ、節電ボリュームの有用性と課題について議論する.
近年,ウェアラブルコンピューティングへの注目とともに,常時情報を閲覧できる環境が現実的になってきており,ユーザの行動や状況を認識し,状況に合わせて適切に情報を提示する手法が数多く提案されている.しかし,常時情報閲覧環境ではユーザは常に情報が必要なわけではないので,情報提示に空き時間が生じ,この時間に直接的な情報提示を目的としないものを提示できる.そこで本研究では,先行する事柄が後の事柄に影響を与えるというプライミング効果を利用し,空き時間にユーザの関心事に関連する視覚情報を閲覧させることで無意識に特定の情報に気付きを与えるシステムを提案する.本研究ではまず,視覚情報を与えることによって関連する情報の気付きに影響があることを予備調査により確認した.また,ユーザが関心事に関する視覚情報が得られるよう,画像や動画を提示するシステムPrimer Streamerを実装した.評価実験では実装したシステム上にサッカー等の画像を提示し,実世界上に置いてあるサッカーボール等のオブジェクトに気付くかを調べ,提案手法がユーザに対し影響を与えることを確認した.
GUIやビデオゲームにおいてカーソルやキャラクターは自分が操作している感覚があり,しばしば手の延長ともたとえられることがあるが,この原因はどこからくるのだろうか.本研究では,動きが自分の操作感や身体の延長として考え,動きから自己を特定するための実験環境を構築した.実験環境は,複数のダミーカーソルの中に自分自身のカーソルを混在させ,そこからマウスを動かすことによって自己を発見するというものである.また,我々は実験環境構築中に操作者には自身のカーソルを特定できる一方観察者には発見できない非対称性を発見した.本論文では自身カーソルの発見と非対称性について実験環境を通じて検証を行った.実験結果に基づき,なぜカーソルは自分が操作しているように感じるのかや自己を特定する方法について考察し,GUIやビデオゲームの操作感,没入感の向上などインタラクティブシステムの応用可能性について議論する.
ラジオ放送は,インターネット配信の開始やSNSとの連携など新しいメディアへと変わろうとしている.筆者らは,ラジオの“別の作業をしながらでも聴ける”という聴取スタイルに注目し,効果音をリアルタイムに鳴らし合うことで番組に対する感想を共有するシステム「ラジへぇ」について検討してきた.本論文では,ラジオ番組「くらもといたるのいたらナイト」とのコラボレーションで実施した全9回の実証実験とその結果について述べる.実験参加者(番組聴取者)による感想の入力傾向の解析,および,聴取者と出演者両方からの主観評価をもとに,本システムの特性や可能性,課題について考察した.
一度に多くの写真を同時にインタラクティブにディスプレイ上に表示することができる新しい方法を提案する.写真の配置に対するさまざまな要求事項を取捨選択することができ,また,その場での利用者とのインタラクションに応じて写真群のレイアウトをリアルタイムに柔軟に変化させるため,創発の考え方によるアルゴリズムを採用する.個々の写真の表示位置や大きさのパラメータを時間の関数と考え,それぞれが隣接する写真との局所的な関係等によって決まる方向へと時々刻々変化させる.その結果として,写真群全体の大局的なレイアウトを自動的に変化させ,インタラクションなどの外乱がなければ,ある十分な時間が経過すると収束する.本稿では,アルゴリズムを説明した後,いくつかの動作例を紹介し,簡単な評価実験の結果を示して,今後の応用について議論する.
対面環境において,人は誰かに見られているとき,見られて困る行動はせず,プライバシーの侵害が起こらないようにする.しかし,カメラを通じて人に見られている分散環境では,人に見られていることを忘れやすく,プライバシーの維持は困難である.そこで,誰か人に見られている感覚である「見られている感」を人に与えることでプライバシー侵害感を低減することを目指す.本稿では,この見られている感を与える要因を検討し,実験により評価した.結果,1)人の存在は見られている感の決定的な要因ではない,2)見ている人の発生させる音は提示の知覚的な印象を人に近づける,3)カメラからの死角をなくすことは認知的な印象を人に近づけることがそれぞれわかった.また,2)3)の効果が相乗することにより,プライバシーの維持に繋がることがわかった.
これまでに,物体の把持状態を認識し,HCIへの応用を試みる研究が数多く行われている.一方で,それらの研究は大量のセンサや特殊なハードウェア構成を必要とするため,複雑もしくは高コストである.本稿では,アクティブ音響センシングにより,手軽かつ安価に物体の把持状態認識を行う手法を示す.本手法の特徴は1組のスピーカとマイクを物体に貼り付けることによって,物体を把持する手の姿勢,および把持する力の認識を可能とする点にある.携帯情報端末の操作に本手法を用いることを想定した実験を行った結果,7種類の把持姿勢の認識精度がper--uesr testにおいて90~99%,cross--user testにおいて66%となった.また,3段階の把持力の認識精度がper--uesr testにおいて95~100%,cross--user testにおいて81%となった.
スマートテレビでは,従来のテレビと比べ,リモコンによるメニュー選択などの操作が頻繁に要求される.画面上のターゲットを直接タッチして選択したり,マウスを使って選択したりすることはテレビの視聴場所からして困難である.このような状況でのターゲット操作を容易にするため,個々のターゲットにジェスチャーガイドを割り当てて選択できるようにする方法が提案されてきたが,元のターゲットの一部がジェスチャーガイドで隠れてしまうことがあるため,ガイドの表示/非表示を切り替えて使用せざるを得なかった.この結果,操作の手間が増えるだけでなく,ジェスチャーガイドの読み取りにかかる時間を大幅に増加させてしまう要因となっていた.そこで本論文では,トレース・セレクトという新しい手法を提案する.提案手法は,ターゲットとなる文字列の象形をもとにジェスチャーガイドを生成する.このジェスチャーガイドは,元のターゲットを隠さないため,ターゲットを選ぶ間,常に表示しておくことが可能である.英字ターゲットを用いた実験の結果,カーソルベースの選択手法やジェスチャーガイドの表示/非表示を切り替える手法の選択速度を大きく凌駕することが明らかになった.
近年,タッチスクリーンを持つ携帯端末が普及し,視覚障がい者からもこの携帯端末を利用したいという要望がある.しかし,視覚障がい者は,触覚を介して指がスクリーンに触れている位置を正確に把握できないため操作が困難である.本論文では,タッチスクリーン上での文字入力操作に焦点を当て,指がタッチスクリーンに触れた任意の位置から指を離さずにスライドさせることで文字入力を可能とする操作方式『Drag&Flick』を提案する.提案方式は,タッチスクリーン操作において視覚的なフィードバックに依存しない文字入力方式である.提案方式の文字入力精度を向上させるために,指の移動方向を精度よく検知するためのデザイン,および指の移動方向の識別アルゴリズムを実装し,指の移動方向の識別精度と提案方式の操作性を確認するための被験者実験を行った.その結果,提案したデザインおよびアルゴリズムに効果があることを確認できた.
パーソナルコンピュータ(PC),スマートフォン,タブレットPCなど,複数のコンピュータを利用する状況では,表示されている情報をコンピュータ間で転送する必要がしばしば発生する.単一コンピュータ内でならば,コピー・アンド・ペーストやドラッグ・アンド・ドロップなどの直接操作により情報の移動が容易に可能であるが,複数台のコンピュータによる環境では,転送先機器の探索や指定などのために煩雑な操作が必要になることが多い.そこで本稿では,急速に普及しつつあるマルチタッチ可能なトラックパッドやタッチディスプレイを利用して,複数コンピュータ間でのコピー・アンド・ペースト操作を直感的に実現する操作技法:記憶の石(Memory Stones)を提案する.本方式はコンピュータ上に表示されている情報を,ユーザが複数の指を使ってつまみ上げ,これを別のコンピュータに運び・置く動作により,コピー・アンド・ペーストを実現する.
本研究では,人間の頭部動作と無人航空機(UAV)を同期する操作メカニズムを提案する.遠隔操作型ロボットは,遠隔コミュニケーションや災害救助支援などの分野において発展しており,操作性は重要である.UAVも遠隔操作型ロボットの一種であり,災害地の監視や映像コンテンツ撮影などの分野で運用されている.UAVを制御するためには複数の制御パラメータを同時に入力する必要がある.これまでの代表的なUAVの操作デバイスに,R/Cプロポーショナルシステムやジョイスティックがあるが,複数のレバーやボタンを使用して機体を制御しなければならないため,正確な操作には長期の訓練が必要である.本研究ではUAV制御の入力操作として,人間の歩く,屈むといった身体動作を採用した.身体動作を利用することにより,前後左右への移動や回転といった制御パラメータを並列的に決定することができる.また,実際に身体を移動させるため,UAVの移動距離を身体感覚から見積もることができる.本手法の操作性検証として,静止オブジェクトと移動体を撮影する評価実験を実施した.検証の結果,ジョイスティックによる操作と比較したとき,本手法の方が有意に良好な結果を出した.最後に,本研究の成果を応用したアプリケーションについても議論した.
人間は他者と交流する際に,抱擁や撫でる動作,あるいは殴打のような身体的な動作を用いてその感情や意図を伝達する.我々は,こうした人と人との交流に見られるソーシャルタッチインタラクションを認識するEmoballoonを提案する.提案するインタフェースは,風船のように内部に流体を密閉した弾性体と,その内部に封入された気圧センサとマイクロフォンから構成される.風船の柔らかく,外部からの加圧を内気圧の変化で検出できる特性を活かした簡便な構成となっている.本稿ではこの構成に基づき,風船を用いてEmoballoonを実装し,その識別性能を評価した.その結果,予備実験により定義した7つの動作に対して83.5%の識別率を得た.また,提案手法の可能性や将来の応用例についても議論する.
舌へ陰極刺激提示を行うと,刺激提示中は塩味が阻害されるが,刺激を停止した後には「塩味をさらに強く感じさせる」効果があることがHettingerらの研究で明らかになっている.本稿ではこの知見を応用し,減塩を支援するシステムを構築した.提案システムは食器(ストローまたはフォーク)と一体化した陰極刺激付加装置をもち,さらに飲食行動検知機構を備えている.飲食行動を検知すると,食品を媒介としてユーザの舌に陰極刺激を付加し,その後停止する.ユーザは,刺激停止後に塩味が強まったような感覚を得られる.このため,塩味の物足りない食事であっても,新たに塩分を付加せずにその感覚を増強することができ,過剰な塩分摂取を防ぐことができると考えられる.
バーチャル・リアリティ・インタフェースにとって,生成された仮想刺激と本物刺激の類似性を評価することは永年の重要な課題である.評価実験の課題として最も頻繁に用いられるものの一つに,刺激同定課題がある.実験の参加者はランダムに呈示された刺激の種類を候補の中から選択・回答し,その結果は,混同行列としてまとめられる.本論文は,これらの混同行列を基に,仮想刺激と本物刺激を多次元知覚空間に配置する方法を開発した.刺激同士の知覚的非類似性は,空間上の距離として表わされるため,刺激の空間配置を見ることによって,刺激の類似性を容易に把握できる.これにより,バーチャル・リアリティ・インタフェースの開発者らは問題の所在を定量的に把握し,インタフェースの改善へとつなげることが可能となる.
我々はタッチパネルに触覚情報を付加するため,剪断力を利用した手法を提案する.タッチパネル上でテクスチャ情報として振動を利用する手法はいくつか提案されているが,形状情報と同時に重畳提示できる手法は提案されていない.我々は剪断力を利用することで,形状情報とテクスチャ情報を提示可能な手法を提案する.静的な剪断力により形状を,動的な振動方向制御による高周波振動によりテクスチャ情報を提示することで,それぞれの独立な情報提示を可能にする.心理物理実験により,提案する独立な情報提示が従来手法より「やわらかさ」の表現に適していることがわかった.また,形状とテクスチャの重畳提示実験により,被験者が双方の情報を同時に知覚していることを確認した.
近年,新たな遠隔会議の方法としてロボットを介して遠隔地にいる相手と対話するロボット会議が研究され始めた.ロボット会議の特徴は,対話相手の身体動作を実体のあるロボットで提示することである.しかし,実体のあるメディアを介して対話することが遠隔会議においてどのような効果をもたらすかは明らかになっていない.本研究の目的は,遠隔会議における実体の効果を明らかにし,ロボット会議の有効性を検証することである.我々は,ロボットや様々な既存の遠隔対話メディアを介して対話する被験者実験を実施した.その結果,実体は対話相手のソーシャルテレプレゼンス(相手と対面で対話している感覚の度合)を強化することが分かった.さらに,実体は対面会議で感じるような緊張感を生み出すことも分かった.これらの結果からロボット会議の有効性が示唆された.
日常生活の中で,ふと目にした素材についつい触れてみたいと感じることがある.本研究は,このような素材による触察行動の誘引を取り扱う.われわれは,素材により誘引される触れ方の違いに着目し,触察行動誘引のメカニズムに関する仮説を立て,実験を通してこの仮説を検証した.仮説は,1)テクスチャの要素(粗さ,温冷,摩擦,硬軟,凹凸,光沢知覚の6種の特徴)のいずれかが際立った素材は触察行動を誘引し易く,さらに,2)誘引される触察行動はテクスチャの際立ち方の違いに影響される,である.実験では,官能評価実験から36種類の素材のテクスチャを測定した.また,参加者が素材に触れる際の行動を計測するとともに,得られた結果に対しクラスタ分析を適用することで,誘引される触れ方を4種に分類した.そして,テクスチャと触察行動の関係を表す確率モデルを構築し,確率推定を行った.その結果,際立ったテクスチャを有する素材は,特定の触れ方を誘引する確率が高いことが明らかになった.